鎌倉市は神奈川県の南部に位置する都市です。
山と海に面する風光明媚な土地で、多くの歴史的遺跡を持つ古都として知られています。
ゴミ屋敷のイメージが浮かびにくい都市です。
しかし、実はゴミ屋敷に関する条例があります。
一体、どのような条例なのでしょうか。
目次
神奈川県鎌倉市のゴミ屋敷に関する条例ができるまで
鎌倉市で制定されているゴミ屋敷に関する条例は、正式には以下の名称です。
「鎌倉市住居における物品等の堆積による不良な状態の解消及び発生防止のための支援及び措置に関する条例」
鎌倉市では、ゴミ屋敷に関する条例を制定するにあたり、条例骨子を開示しました。
そして、市民などに対してアンケートを行いました。
寄せられた意見は以下のようなものです。
一部をご紹介しましょう。
条例全般に関して
寄せられた意見は以下のものがありました。
- ゴミ屋敷など社会の秩序を乱す人に対し、条例等を定めてほしい
- ゴミ屋敷問題解決には、何らかの条例制定が必要
- ゴミ屋敷問題が起こる要因として、人と人のつながりが希薄になっている世相や、セルフネグレクトの問題などがある
福祉的支援に関して
寄せられた意見は以下のものがありました。
- 「ゴミ屋敷」の住人には、認知症を発症し、SOSを出さない、出せない人がいる
- 隣人に関心を持たないことから、他者の適切な介入が得られないという状況がある
- 認知症初期に対応できる仕組み作りと、市民への認知症の啓発が必要
条例の対象者となる人(ゴミ屋敷の居住者)に関して
寄せられた意見は以下のものがありました。
- 居住者の責任範囲と、何が正常か、という範囲を明確に決めてほしい
- 処置や立ち入り、またその前段階に関してきちんと段階を決めることが必要
- 「ごみ屋敷」という文言が条例の中で使われるのは不適切ではないか
鎌倉市は、このような意見に対する回答として、次のように答えています。
ゴミ屋敷の問題は、認知症・加齢による心身機能の低下・精神疾患・地域社会からの孤立など、居住者が抱えるさまざまな要因から発生している側面がある。
今後、高齢者単身世帯の増加や、地域との関係が希薄になりつつある社会的背景にあって、ゴミ屋敷の問題は、誰もが直面するかもしれない事案である。
これらを考え、ゴミ等の堆積物をただ片付ければよいというのではなく、福祉的なサービスや地域の支援につなげ、予防や再発防止を図っていく
目的と定義
では、条例の内容について見ていきましょう。
条例の目的とは?(第1条)
この条例は、何を目的として定められたのでしょうか。
第1条によると、以下のように規定しています。
- 市民が居住する建物等における物品などの堆積による不良な状態の発生を未然に防止すること
- 不良な状態の解消を図ること
- 再び発生させないための支援や措置に関し必要な事項を定めることにより、市民の安全で健康かつ快適な生活環境を確保すること
条例における定義とは?(第2条)
条例における定義を解説します。
不良な状態
改善すべき「不良な状態」について定義します。
物品などの堆積により、次のような状態が生じ、周辺の生活環境が著しく損なわれている状態をいいます。
- 悪臭が発生している
- ゴキブリ、ネズミなどの害獣虫が発生している
- 火災や通行止めの危険の恐れがある状態
堆積物
堆積することにより、不良な状態の原因となっているゴミなど、積み上げられているもののことです。
堆積者
居住している建物などに物品等を堆積させ、不良な状態を発生させている人を指します。
建物等
鎌倉市内にある建物と、その敷地を指します。
マンション・アパートなど共同住宅をはじめ、多くの人が利用する住宅については、共用部分も含まれます。
市民
市内に居住する人です。
支援
市、または地域住民、関係機関その他の関係者が、不良な状態の解消及び発生の防止を図るための対策を講ずることをいいます。
措置
建物等における不良な状態の解消を図るための対策を指します。
神奈川県鎌倉市のゴミ屋敷に関する条例の内容とは?〜②基本方針と責務
次に、条例の基本方針と、条例に関わる人の責務について見ていきましょう。
基本方針(第3条)
建物等における不良な状態の解消や発生の防止は、以下の基本方針に基づいて進められます。
片づけの原則
建物等における不良な状態は、堆積者が自ら解消することを原則とします。
ゴミ屋敷になる背景を考慮
建物等における不良な状態が発生する背景には、地域社会における孤立など、さまざまな生活課題があります。
そのため、福祉的観点から、生活上の課題を抱える人に寄り添った支援を行います。
鎌倉市は、ゴミ屋敷の発生は、堆積者が抱えるさまざまな問題や社会背景、また、誰もが直面するかもしれない問題と捉えています。
このことから、ゴミ屋敷の解消や予防、再発防止には、福祉的観点が必要だという姿勢がうかがえます。
対策
市や地域住民、また堆積者は、建物等における不良な状態の発生の防止に努め、協力します。
また、不良な状態の解消のために必要がある場合は、解消に向けた対策を行います。
措置
建物等における不良な状態の解消に取り組む際、基本的に支援を行います。
そして、必要に応じて措置を適切に講じます。
おのおのの責務について
市、市民、建物の所有者等が一致協力してきれいな街を作ることを旨としています。
鎌倉市の責務とは(第4条)
鎌倉市は、市民が住む建物等が不良な状態にあったり、不良な状態になる恐れがある場合、前条の基本方針にのっとり、地域住民等と協力して、原因・経緯などを検証します。
また、必要な対策を総合的に講じます。
鎌倉市民の責務とは(第5条)
市民は、住んでいる建物等を不良な状態にしてはなりません。(第1項)
また、近隣の住民とお互いに協力し、居住する地域にある建物等が不良な状態にならないよう努めなければなりません。(第2項)
市が行う対策に協力する
市民は、第1条の目的を達成するため、市が行う対策に協力するよう 努めなければなりません。(第3項)
所有者等の責務とは(第6条)
建物等の所有者・管理者は、所有・管理する建物等が不良な状態とならないよう努めなければなりません。(第1項)
もし、所有・管理する建物等が不良な状態となってしまったら、ゴミなどを堆積した人と協力し、不良な状態を解消 するよう努めなければなりません。(第2項)
また、第1条の目的を達成するため、市が実施する対策に協力するよう努めなくてはなりません。
神奈川県鎌倉市のゴミ屋敷に関する条例の内容とは?〜③支援と調査
では、鎌倉市内で「不良な状態」が発見された場合、市はどのようなことを行うのでしょうか。
支援(第7条)
市長は、不良な状態を解消・防止するため、堆積者や地域住民からの相談に応じます。
また、そのために必要な範囲の調査を行い、情報提供します。
堆積者が自分で片付けることが難しい場合は、堆積者からの申し出に基づいて、ゴミなどの排出を支援します。
調査(第8条)
市長は、この条例を施行する上において、以下の点を必要な範囲で調査することができます。
- 建物の状況
- 堆積者の居住状況
- 心身の状態
- 就労
- 親族関係
なお、職員等の立ち入り調査が入る場合は、堆積者や建物の所有者に通知されます。
罰則について
支援や指導などを受けたにもかかわらず、不良な状態が改善されなかった場合、罰則は規定されているのでしょうか。
指導(第9条)
支援によって不良な状態の改善が難しいと判断された場合、市長は改善するための措置を行うよう指導できます。
勧告(第9条第2項)
指導を行っても不良な状態が改善されない場合、市長は堆積者に対し、改善措置を行うよう、期限を定めて勧告できます。
命令(第10条)
勧告を行っても不良な状態が改善されない場合、市長は堆積者に対し、改善措置を行うよう、期限を定めて命ずることができます。
ただし、市長が命令を行う場合は、弁護士、学識経験者など7人の委員で構成する「鎌倉の市住居における物品等の堆積による不良な状態の解消に関する審議会」の意見を聴かなくてはなりません。
行政代執行(第11条)
命令を受けた堆積者が、正当な理由なく当該命令に従わない場合は、どうなるのでしょうか。
他の手段によって命令された改善措置を行うことが困難であり、なおかつ、この状態を放置することが著しく公益に反すると考えられる場合は、行政代執行法(昭和23年法律第43号) の定めるところにより、自ら改善措置をなし、または第三者にこれを行わせることができます。
その費用は堆積者から徴収することができます。
ただし、市長は、代執行をしようとするときは、あらかじめ審議会の意見を聴かなければなりません。(第2項)
まとめ
鎌倉市のゴミ屋敷に関する条例は、直接的にゴミ屋敷というワードこそ使っていないものの、全てがゴミ屋敷に関する内容となっています。
他の都市の条例は、環境全般に関しての条例の中にゴミ屋敷にも当てはまると考えられる条文が盛り込まれている形が多いなか、かなり特徴的であると言えるでしょう。
また、市民の意見を取り入れ、ゴミ屋敷に対して福祉的な視点を強く持っているところも大きな特徴となっています。