近年、ごみ屋敷に関する条例を設けている自治体が増えている傾向にあるようです。
いま、ごみ屋敷はどのような状態になっているのでしょうか。
環境省による「『ごみ屋敷』に関する調査」報告書を見ながら考えていきます。
目次
ごみ屋敷に関する調査を行った理由は?
今回ご紹介する報告書は、平成30(2018)年3月、環境省環境再生・資源循環局 廃棄物適正処理推進課によって発表されたものです。
この頃はまだ、ごみ屋敷に関する条例を制定している市区町村も少なく、ある新聞社の調査では、2016年時点で16市区のみだったようです。
しかし、ごみ屋敷問題が顕在化し、社会問題として取り上げられることが多くなってきた頃であると言えるでしょう。
本調査は、このような状況を鑑みて行われました。
調査の目的として「近年、いわゆる『ごみ屋敷』の問題において、条例を制定する等、各自治体が生活環境の保全や公衆衛生を害する状況に対応しているケースがある」とし、各市区町村における対応事例などを把握するために実施されています。
この調査は、全国1741市区町村に対して行われ、各都道府県において、同都道府県下の全ての市区町村の状況についてアンケート調査を実施し、その結果を取りまとめたものです。
回答状況は1739市区町村にのぼり、99.89%と高い回答率を得ています。
各自治体の認識度と対応は?
前半では、ごみ屋敷が存在することについて、各自治体がどのように把握しているのかを明らかにしています。
この調査では、ごみ屋敷の事案について「認知している」自治体が594市区町村(34.2%)、「認知していない」自治体が1145市区町村(65.8%)と、6割以上の自治体で把握されていないことが分かりました。
都道府県別の認知状況を見ると、ごみ屋敷について50%以上の市区町村が認知している都道府県は以下の8自治体でした。
- 広島県
- 埼玉県
- 愛媛県
- 東京都
- 茨城県
- 栃木県
- 愛知県
- 大阪府
逆に認知度が低い自治体は以下の4自治体で、20%を下回っています。
- 北海道
- 奈良県
- 高知県
- 青森県
単純な数で見ると、埼玉県(35市区町村、以下同)、東京都(33)、北海道(33)が上位となりました。
認知している市区町村数が10以下の自治体は石川県・新潟県(9)、香川県・長崎県・群馬県(8)、福井県・山口県・佐賀県・京都府・山梨県・和歌山県・奈良県・青森県(7)、滋賀県・鳥取県・秋田県・高知県(6)、島根県・徳島県(5)、大分県(4)、富山県(3)という結果が出ています。
また、ごみ屋敷が存在している場合、その存在を認知している自治体または市区町村は、ごみ屋敷に対してどのような対応を行っているのでしょうか。
最も多かったのは「原因者への指導」で33.8%(366)です。
続いて「原因者への包括的サポート」20.4%(221)、「パトロール」16.5%(179)、「住民・警察との連携」13.8%(150)、「ごみの撤去」8.3%(90)、「その他」7.2%(78)が挙げられています。
この設問に対しては複数回答可としており、多くの自治体で1つの対策でなく、複数の対策を行っている自治体が多いことがわかります。
全国に、ごみ屋敷に関する条例はどのくらいあるの?
これまでの調査・回答によって、2018年時点では、ごみ屋敷に関して把握していたり、何らかの対策を取っている自治体は多くないことがわかりました。
では、その中で、ごみ屋敷に関する条例を定めている市区町村はどのくらいあるのでしょうか。
また、その内容はどのようなものなのでしょうか。
調査中盤では、罰則規定の有無や、その適用事例について調査しています。
ごみ屋敷条例を制定している市区町村は?
「ごみ屋敷」に対応することを目的とした条例は、どのくらいの市区町村が定めているのでしょうか。
この調査においては82市区町村が定めており(4.7%)、1657市区町村が定めていない(95.3%)ことがわかりました。
ごみ屋敷に関する条例を最も多く定めている自治体は東京都で、11市区町村が定めて(17.7%)います。
以下、秋田県と栃木県が12.0%、香川県11.8%、佐賀県10.0%と続き、その他は大阪府の9.3%を筆頭に1桁台にとどまっています。
単純な数で見ると、1位は東京都の1市区町村でした。
次が北海道の9、埼玉県・長野県(5)、大阪府・愛知県(4)と続き、非常に少ないことが分かります。
条例を定めている市区町村が1ヶ所もない自治体も多く、以下の15自治体にのぼりました。
- 群馬県
- 千葉県
- 新潟県
- 石川県
- 山梨県
- 三重県
- 滋賀県
- 和歌山県
- 鳥取県
- 島根県
- 広島県
- 徳島県
- 愛媛県
- 高知県
- 沖縄県
この結果から、ごみ屋敷の存在を把握はしていても、条例を定めて改善しようとしている自治体はまだまだ少ないことが浮かび上がります。
条例における措置の内容は?
ごみ屋敷に関する条例を制定している82市区町村では、ごみ屋敷に対してどのような措置を規定しているのでしょうか。
- 助言及び指導:19.5%(59)
- 勧告:18.2%(55)
- 調査:17.2%(52)
- 命令:14.3%(43)
- 公表:11.2%(34)
- 代執行:8.6%(26)
- 支援:5.6%(17)
- その他:5.3%(16)
複数回答可なので、複数の措置を行っている市区町村も多く、段階を踏んで措置を講じているだろうことが予想されます。
罰則は規定されている?
条例に違反した場合、何らかの罰則が科せられることがありますが、ごみ屋敷に関して、罰則は定められているのでしょうか。
条例を制定している市区町村のうち、「罰則がある」と答えたところは20.7%(17)、「罰則がない」と答えたのは79.3%(65)でした。
この時点で、条例によって措置は定められていても、罰則までは与えられないという市区町村が多かったようです。
措置や罰則は実際に適用されている?
ごみ屋敷に関する条例で定められている措置や罰則は、実際に適用されているのか、気になるところです。
調査では、「適用したことがある」23.2%(19)、「適用したことがない」76.8%(63)という結果となりました。
条例はあっても、実際に措置や罰則を科すには、まだ慎重になっているのかもしれません。
措置・罰則が適用された例は?
実際に措置や罰則が適用された例は多くありませんが、その内容について見てみましょう。
- 助言および指導:24.2%(15)
- 調査:21.0%(13)
- 支援:14.5%(9)
- 勧告:11.3%(7)
- 命令:8.1%(5)
- 代執行:6.5%(4)
- 罰金・科料・過料:4.8%(3)
- 公表:4.8%(3)
- 告発・検挙:1.6%(1)
- その他:3.2%(2)
最も緩い罰則と思われる「助言および指導」や「調査」が多いのはわかる気がしますが、少ないながらも「命令」「代執行」「罰金・科料・過料」「公表」という重い罰則が科された例もあるようです。
ごみ屋敷に関する条例制定の今後は?
まだまだ少ない、ごみ屋敷に関する条例ですが、ここまでの調査で、実際に罰則や措置を科された例もあり、指名を公表されたり、罰金などを課された例もあることが分かります。
とはいえ、条例等を制定している82市区町村のうち48市区町村が、条例の導入後も何らかの課題を抱えているようです。
58.5%の市区町村(48)が「課題がある」と答えています。
「課題はない」と答えたのは0.3%(33)ですが、残念ながら、この中でどのくらいの市区町村が実際に措置や罰則を科したことがあるのか不明なのは残念です。
では、「課題がある」と答えた市区町村では、具体的にどんなことに関して課題があると考えているのでしょうか。
最も多かったのは「原因者への指導方法」が30.8%(36)と3割を超えました。
ごみ屋敷の住人は精神的な問題を抱えていることも多く、指導の方法もデリケートであろうことが想像されます。
2位には「原因者への包括的サポート」26.5%(31)が続き、ごみ屋敷の住人への指導やサポートの難しさがさらに伝わってきます。
3位以下は次のようになっています。
- 住民・警察との連携:17.1%(20)
- 適用方法(罰則等):12.8%(15)
- 適用までの時間と経費:10.3%(12)
- その他:2.5%(3)
これらの回答から、各自治体も、措置や罰則の運用の仕方の難しさを感じていることが推測されます。
コロナ禍の中にある昨今、家にいる時間が増えたことが原因で、ごみ屋敷や汚部屋に住む意図が急増しているといいます。
遠くに、都会に多い1人暮らしの若い世代が、外出の自粛によってごみの出やすい飲食のデリバリーや通販を利用する機会が増えたことが原因と見られています。
今後もごみ屋敷は増えると考えられ、市区町村が対応しなくてはならない事例が増えるでしょう。
それに伴い、ごみ屋敷に対する条例を制定する自治体、市区町村も増えていくのではないでしょうか。
出典:平成30年3月 環境省環境再生・資源循環局『平成29年度「ごみ屋敷」に関する調査報告書』