ゴミ屋敷条例が制定されたことで、行政による行政代執行にてゴミ屋敷の撤去が可能になりました。
それまでのお願いベースから、一歩踏み込んだ条例の制定によってゴミ屋敷問題解決に一石を投じることになりました。
しかしその一方で、問題や課題も浮き彫りになっています。
ゴミ屋敷条例制定後の問題点とは
ゴミ屋敷条例が制定され、実際に行政代執行によってゴミ屋敷が解決されたり、あるいは行政代執行に至るまでの段階での状況改善がみられています。
しかしゴミ屋敷条例が一定の成果を挙げている一方で、新たに浮上した問題点や課題がいくつかあります。
ゴミ屋敷条例の問題点その1:どこからがゴミ屋敷なのか
根本的な問題ですが、ゴミ屋敷条例はゴミ屋敷の撤去に関する条例ですが、ゴミ屋敷の定義は少々あいまいです。
いくら周囲の住人が特定の敷地をゴミ屋敷だと感じていても、本当に今の状態がゴミ屋敷条例の対象となるのか決定するのが難しかったり、決定までに時間がかかることがあります。
住居者が「ゴミ屋敷ではない」と主張する場合も考慮して、多くの自治体の条例において、「ゴミ屋敷」ではなく、単に「堆積物」「物の堆積」という言葉しか使われていません。
もう一歩踏み込んでゴミ屋敷を明文化してしまうと行政の中立性が損なわれるとの懸念から、幅をもたせた定義にせざるを得なかった事情もあるようです。
仮に住人が「堆積物だが持ち物だ」と主張すれば、「ゴミ屋敷」だと定義することが難しくなってしまいます。
ゴミ屋敷条例の問題点その2:地域住民との認識のずれ
ゴミ屋敷で直接的に悩まされるのは、ゴミ屋敷周辺の住人です。
ゴミ屋敷は見た目の問題だけでなく以下の問題も引き起こしかねません。
- 異臭
- コバエの発生などの不衛生
- 通りがかりの人がゴミを捨てやすい
実際、ゴミ屋敷問題を行政に通報するほとんどは周辺の住人です。
周辺住人とすれば、せっかくゴミ屋敷条例があるのだから、事務的にゴミ屋敷を片付けてコミュニティをきれいにしてくれれば十分と考えるようです。
しかし、実はゴミ屋敷条例の本質は片付けることだけではなく、再発防止も視野に入れています。
ですから、ゴミ屋敷条例には住居人に対してのアフターフォローも含まれます。
例えば、神戸市のゴミ屋敷条例では住居者が貧困世帯であれば条件付きで100万円まで支給されます。
ゴミを片付けるだけでは、再度ゴミ屋敷化してしまう恐れが高いからです。
それで経済的なフォローを行うことで、ゴミ屋敷の再発を防止する願いがあります。
しかし地域住人の中には、ゴミ屋敷の撤去で十分なのに、ゴミ屋敷を作った張本人にまで税金を投入するのは受け入れがたいと感じる人もいるでしょう。
片付けてもらうことがゴールの地域住民に対し、再発防止まで視野に入れているのがゴミ屋敷条例です。
このギャップを埋めるためにはゴミ屋敷の住居者だけではなく、ゴミ屋敷周辺住人にもゴミ屋敷条例の目的を理解してもらう必要があります。
ゴミ屋敷条例の問題点その3:罰則の多くが過料でしかない
ゴミ屋敷条例は地方自治法に基く条例として制定されていることから、本来であれば2年以下の懲役、もしくは禁固、100万円以下の罰金を設けることができます。
しかし多くのゴミ屋敷条例の罰則は過料のみの設定です。
中には、過料を設けることによる行政へのマイナスイメージを危惧し、過料さえ設定していない自治体もあります。
つまり、ゴミ屋敷条例に非協力的であっても、罰金のみ、あるいは罰金もなく、注意・警告等しかできない自治体もあるのが現実です。
抑止力を期待するには過料が実効的ですが、罰則自体がない、あるいは過料のみの軽い罰則しかないことで、結局は条例が抑止力として機能していないとの問題点が指摘されています。
ゴミ屋敷条例の問題点その4:「通い」の場合には対応できない
ゴミ屋敷の状態は千差万別ですが、条例の適用が難しいケースがあります。
それはゴミ屋敷の原因者(所有者)が、当のゴミ屋敷やその周辺に住んでいない場合です。
所有者が他の自治体に住んでいる、いわば「通い」の家屋敷がゴミ屋敷となってしまった場合、該当の自治体の条例の適用が難しくなります。
多くの場合、ゴミ屋敷の原因者は住居者であることが多いので、通いのゴミ屋敷はレアケースではあるようです。しかし、通いのゴミ屋敷の場合、条例に基づいた片付け措置は可能ですがの医療福祉的なアフターフォローが難しくなります。
つまり、ゴミを撤去することはできても根本的な原因の解決が難しいのです。
ゴミ屋敷がある自治体で問題を起こしていても、当人の住居先自治体ではゴミ屋敷条例を十分に適用できないケースが多々発生しています。
せっかく長期的な再発防止まで視野に入れたゴミ屋敷条例の効力が半減してしまいかねません。
ゴミ屋敷条例の問題解決のためのポイントは?
ゴミ屋敷条例はゴミ屋敷解決のために有効な条例である一方、いくつかの問題点が指摘されているのも事実です。
これらの問題点の解決のためには、何が必要なのか考えてみましょう。
地域住民によるゴミ屋敷条例の理解
ゴミ屋敷条例は、ゴミを撤去するだけではなく、将来の再ゴミ屋敷化を防ぐ目的もあります。
しかし、そこまで理解している地域住人はまだ少ないのが現実です。
ほとんどの地域住人は、再発防止よりも目の前のゴミ屋敷を何とかしてもらえれば十分と感じています。
行政と住民の意識ギャップを埋めるためには、既存のゴミ屋敷周辺の住人だけではなく、市民全体にゴミ屋敷条例をアピールしなければなりません。
周辺住人がゴミ屋敷条例を正しく理解すれば、行政もゴミ屋敷住居人への支援を行いやすくなり再発防止の確率がより高まります。
地域コミュニティとの一体感
条例だけでゴミ屋敷問題を解決するのではなく、行政と地域コミュニティの一体感も重要です。
ゴミ屋敷条例は行政代執行によるゴミ屋敷の片付けが可能ですが、条例の性質上簡単に執行できるものではありません。
まずはゴミ屋敷住居者、または所有者との粘り強いコミュニケーションを行い、できる限り自発的な改善を促し、結果が出ない場合にのみ行政代執行が可能になります。
ポイントは、行政だけで勝手に決めるのではなく、地域コミュテニィと一体となって問題の解決にあたる点です。
条例の施行者は行政ですが、施行の目的は地域住民の生活レベルの向上と維持です。
多くの自治体のゴミ屋敷条例では、残念ながら地域住民とのコミニケーションに関しての明確な事項は見当たりません。
ですから、行政主導で「勝手に」ゴミ屋敷条例に基づいた施策を行っているかのような印象を与えてしまいがちです。
しかし、問題解決のためにはゴミ屋敷条例に関する地域住人の理解が不可欠でしょう。
住民の声に耳を傾ける重要性
ゴミ屋敷条例を理解してもらうための告知だけでなく、行政が住民の声に耳を傾けることも大切です。
多くの自治体では、ゴミ屋敷条例が制定される前は、地域住民からのゴミ屋敷の苦情は部署間でたらい回しして時間稼ぎし、住民がゴミ屋敷住人のどちらかがあきらめてくれるのを待つしかなかったようです。
しかしゴミ屋敷条例が制定されたことでゴミ屋敷解決の責任所在が明らかになりました。
自治体職員は職務上の覚悟を持って問題解決に取り組まなければなりませんし、地域住民への理解など丁寧なコミュニケーションが求められます。
ゴミ屋敷条例の問題解決のために
ゴミ屋敷条例は、ゴミ屋敷で悩んでいる地域住人にとってありがたいですが、一方でいくつかの問題もあります。しかしゴミ屋敷条例の制定によって、初めて問題が解決したケースがあるのも事実です。
ゴミ屋敷問題を解決できた地域の住人にとっては、ゴミ屋敷条例は大いに役立っていると考えてよいでしょう。
今後、さらにゴミ問題を効率的に解決するためには、この記事で挙げられている問題点を見つめ直し、より改善していくことが行政と住民の両方に求められます。