孤独死対策のサービスがあることはご存知でしょうか。家族と同居している人は体調に異変が出ても家族に気づいてもらいやすいですが、一人暮らしでは対処が遅れて孤独死に至るケースもあるため注意が必要です。
高齢者の問題ととらえられてきた孤独死ですが、近年では高齢者にとどまらず若い世代にも見られます。社会とのつながりの希薄化や若年層の貧困化が、若い世代に暗い影を落としているのです。
今回は一人暮らしの若者の孤独死と、孤独死防止に役立つサービスについて解説します。
この記事で分かること
- ・一人暮らしの若者の孤独死が増えた理由
- ・孤独死しやすい若者の特徴と孤独死防止策
- ・孤独死防止サービスの種類と利用法
一人暮らしの若者の孤独死が増えた理由
高齢者の孤独死は年間約6.8万人とも推計されていますが(朝日新聞DIGITAL|高齢者の孤独死、推計年間6.8万人 今年1~3月に1.7万人確認(2024年5月14日))、近年は若い世代でも孤独死の増加が見られています。日本少額短期保険協会 孤独死対策委員会が2022年に発表した「第7回孤独死現状レポート」によると、孤独死者の5.0%が20代であったことが明らかにされました。
一人暮らしの若者の孤独死が増えた理由を解説します。
社会とのつながりの希薄化
社会とのつながりの希薄化は、一人暮らしの若者に孤独死が増えた背景の一つです。近所付き合いの減少や核家族化などによって、現代の若者は地域や親戚関係から孤立しやすい状況に陥っています。
かつて当たり前だったご近所さんとの挨拶や立ち話も近年はあまり見られず、「となりに誰が住んでいるかも知らない」という人も少なくありません。核家族化の影響で、アニメのサザエさんのような3世代で暮らす大家族も少なくなりました。
さらに、雇用情勢の悪化を受けて社会に参加できない若者も増えています。インターネット社会といわれる現代は相手と直接顔を合わせる機会が減り、人間関係が途絶えやすい時代です。
結果として、孤立した若者が体調を損ねても周囲に助けを求められず、誰にも気づかれずに孤独死するという最悪のケースにつながります。社会的なつながりを維持することが、若者を孤独死から救うカギとなるのです。
孤独死がもたらす周囲への影響
孤独死は家族に精神的ショックや金銭的な負担を与えるだけでなく、近隣住民や物件所有者にもさまざまな悪影響をもたらします。
遺体発見までにかかる日数が長くなれば遺体の腐敗が起こり、夏なら2~3日内、冬でも5日程度で強烈な腐敗臭を放つようになります。孤独死の現場では、特殊清掃と呼ばれる専門的な消臭消毒などを行わなければなりません。また、孤独死の起こったアパートやマンションは事故物件扱いとなり、不動産価値が下がることになります。
経済的な貧困層にいる若者の増加
若者の孤独死が増えた理由のひとつとして、貧困層の若者の増加が挙げられます。不安定な雇用状況や低収入によって経済的に困窮すると、健康的な生活を維持するどころではありません。
収入が少ないと食事の栄養バランスを気づかう余裕が持てず、健康を損ねるリスクが高まります。外食産業が発展して低コストで手軽に食事できる環境も、偏った食生活を助長しています。そして体調が悪くなっても、医療費の負担を避けて受診しない人もいるのです。
経済的に困窮した若者は社会保険費や年金、家賃、光熱費などの固定費の支払いに追われ、食費などを切り詰めて生活の質を落とさざるを得ない状況に陥ります。貧困状態が長引けば、健康状態の悪化から孤独死に至る場合もあるため注意が必要です。
経済的な安定による健康的な生活の維持は、若者の孤独死を防ぐ上で重要な課題といえます。
孤独死しやすい若者の特徴
孤独死しやすい若者には、次の7つの特徴が見られます。いくつか当てはまったからといって心配しすぎる必要はありませんが、自分や家族、友人などにこれらの特徴が見られるときは目を配ってあげましょう。
一人暮らしをしている若者
一人暮らしをしている若者は、孤独死のリスクが高いグループの一つです。一人暮らしだと他者の目が届きにくいので、心身の状態変化や生活の困窮などを家族や周囲の人に気づかれにくくなります。
たとえば、食生活が乱れたり、お風呂に入らなくなったり、家中ゴミだらけになったりなどの「セルフネグレクト」の兆候があっても、一人暮らしだと誰にも発見してもらえずに悪化するので注意が必要です。
実際に孤独死した人の家ではコンビニ弁当の空箱や飲んだ後のペットボトルが山積みになっているなど、生活環境の著しい悪化が見られることがあります。一人暮らしの若者は定期的に誰かと連絡を取り合うなど、外部とのつながりを意識的に保つことが重要です。
独身で、恋人もいない若者
恋人のいない独身の若者も、孤独死のリスクが高いです。日常的に親密な関係を持つパートナーがいないため、生活の中で心身の変化に気づいてくれる人がいません。さらに、親しい友人や家族がそばにいないと、困ったときに相談できず問題が深刻化しやすくなります。
また、恋愛関係がないことで社会的な交流が減少し、孤立感が強まる可能性があります。一人ぼっちになると精神的なストレスが蓄積されやすくなり、うつ病などの精神疾患の発症にもつながり得るため注意が必要です。
恋人や配偶者のいない若者にとって、家族・友人との関係の維持や、コミュニティ活動などで他者とのつながりが絶えないようにすることが孤独死防止のカギとなります。
コミュニケーションが苦手で人とのかかわりが少ない
コミュニケーションが苦手で人とのかかわりが少ない若者も、孤独死のリスクが高いといえます。人とかかわるのが苦手だと、困ったときに誰かに助けを求めることができません。体調不良や生活の乱れが生じても他人に指摘してもらえないので、気づかないうちに深刻化しやすくなります。
また、コミュニケーションを恐れる背景に、精神疾患が隠れている場合もあるため注意が必要です。うつ病や対人恐怖症などの精神疾患が人との関わりを避ける行動につながることがあり、そのようなケースでは心療内科や精神科に相談することが根本的な解決に不可欠です。
精神的ストレスを抱えやすい
精神的ストレスを抱えやすい状況の若者も、孤独死に注意が必要です。慢性的に精神的ストレスを抱えているとうつ病などの精神疾患の発症リスクが高まり、自殺という最悪のケースに至る場合もあります。
現代はストレス社会ともいわれており、過剰な業務量や人間関係、経済的困窮やSNS疲れなど様々なストレスがのしかかってきます。緊張しやすい人や不安を抱えやすい人、真面目で責任感が強い人などはとくにストレスへの耐性が弱い傾向が見られるため、一人で問題を抱え込まないようにしましょう。
精神的ストレスを抱えやすい若者は、早めに周囲に相談することが重要です。自分に合ったストレス解消法を見つけたり、専門家のカウンセリングを受けたりしてこまめにストレス対策を行いましょう。
生真面目・プライドが高い若者
意外に思われるかもしれませんが、生真面目でプライドの高い若者も孤独死に注意が必要です。これらの人は自己管理能力が高そうなイメージがありますが、性格上の特性が裏目に出る場合があるためです。
生真面目な若者は「他人に迷惑をかけるのは申し訳がない」と考え、困ったときに助けを求めるのを躊躇することがあります。プライドが高い若者は自分の弱点やつらさを他人に知られたくないという気持ちから、トラブルを一人で抱え込む傾向があります。
結果として、経済的な困窮状態により生活水準が著しく低下したり、体調不良が重症化したりするリスクが高まるのです。生真面目でプライドの高い若者は、困ったときに周囲を頼るよう意識することが大切です。定期的に家族や友人と連絡を取り合って信頼関係を築いておくと、いざというとき相談しやすくなります。
非正規雇用・過重労働の環境にいる若者
非正規雇用や過重労働の環境にいる若者も、孤独死のリスクが高いグループに含まれます。収入面での不安や過酷な労働で蓄積した疲労によって、身体的・精神的な健康を損ねる可能性があるためです。
厚生労働省の令和5年賃金構造基本統計調査によると、非正規雇用は正規雇用よりも定期給与が10万円以上少なく、雇用も不安定なので貧困化につながりやすいといえます。食費や医療費を切り詰めて健康状態が悪化したり、お金の不安で精神的ストレスを抱えたりする人もいます。
また、過重労働の若者は激務によって自己管理がおろそかにながちです。十分な睡眠や食事、運動などの時間が取れずに体調を崩すリスクが高まったり、過労死して発見が遅れたりする可能性があります。
非正規雇用や過重労働の環境にいる若者は、自身の健康管理を重視することが重要です。待遇の改善やキャリアアップの機会を探るなど、より安定した就業環境を目指すのも根本的な孤独死予防につながります。
趣味がない若者
趣味がない若者は、孤独死に至る可能性が高まります。一見すると趣味と生死は関係ないように思えますが、趣味は心身の健康を保って社会的なつながりを作るうえで重要です。
趣味がないとストレス発散やリフレッシュの機会が減るため、うつ病などの精神疾患につながるリスクが高まるといわれています。また、趣味が同じ人と交流する機会も得られず、孤立状態に陥りやすいです。
なお、これまで趣味だったことがなぜか楽しめなくなり、物ごとへの関心が薄れてしまったという人はうつ病を発症している可能性もあります。うつ病が疑われる場合は、心療内科・精神科への受診を検討しましょう。
若者の孤独死を防ぐ為には
若者の孤独死を防ぐには、次の5つの対策が有効です。
- 心療内科・健康診断を受診する
- SNSを利用する
- 積極的にコミュニケーションをとる
- 部屋を綺麗にする
- 健康診断を受ける
一人暮らしの若者本人が意識するだけでなく、家族が意識的にこれらの対策を促すことが孤独死から若者を守ることにつながります。それぞれを詳しく解説します。
心療内科・健康診断を受診する
若者が不眠や慢性的な不安感など、精神的な不調を抱えている場合には、定期的な心療内科への受診が極めて重要です。うつ病や対人恐怖症などの精神疾患を治療して精神的ストレスを適切に管理できるようになれば、セルフネグレクトの予防や孤独死対策に直結します。
うつ病の背後にADHD、ASDなどの発達障害が隠れている場合もあり、大人になっても未診断のままで生きづらさを抱えている人も少なくありません。心療内科を受診すれば発達障害についても適切に診断できるため、精神的ストレスに日頃から悩まされている人は無理せず心療内科を受診しましょう。
オンライン診療やオンラインカウンセリングを利用できる病院もあるため、忙しくて受診できないという若者や対面相談が苦手な若者でも利用可能です。定期的な受診が心の健康維持につながり、孤独死のリスクを大幅に減らすことができます。
SNSを利用する
SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の活用は、若者の孤独死を防ぐための有効な手段の一つです。LINEやX(旧Twitter)、InstagramなどのSNSを通じて、定期的に近況を発信することで、周囲の人々とのつながりを維持することができます。
SNSの利点は、直接会えない人にも手軽にコミュニケーションを取れることです。文章を送るのが面倒という人も、LINEで定期的にスタンプを送るだけで自分の状況を周囲に知らせることができます。
また、LINEの「既読」が付かなかったり、SNSの投稿が急に途絶えたりしたときに周囲の人が異変に気づく可能性が高くなります。孤独死リスク低減のためにも、自分に合ったSNSを活用しましょう。
積極的にコミュニケーションをとる
孤独死を防ぐためには、社会的孤立を避けることが極めて重要です。家族や友人、近隣の人々との日常的なコミュニケーションによって孤独が和らぎ、いざというときにも周囲の人々が自分の変化に気づいてくれやすくなります。
コミュニケーションといっても難しく考える必要はなく、すれ違ったときにあいさつをしたり、SNSなども活用して一人ぼっちにならない工夫をしたりするだけでも良いのです。自分の負担にならなければ、徐々にコミュニケーションの機会を増やして仲間と一緒に出かけたり、地域の行事などに顔を出して新しい人間関係を作ったりするのも良いでしょう。
無理をしすぎてストレスを感じるようだと逆効果なので、自分が心地良いと感じる範囲でコミュニケーションを維持するのが大切です。家族側から若者に働きかけていく際には、若者が負担を感じない程度に継続的なコミュニケーションをとっていきましょう。
部屋を綺麗にする
「部屋をきれいにするのと孤独死に何の関係があるの?」と思うかもしれませんが、清潔な生活環境の維持は実は孤独死対策の一つです。清潔な家に住むと、身体的・精神的な健康を保ちやすくなります。
不衛生な環境は、病気やケガの危険因子です。たとえば、カビやハウスダストが喘息などの呼吸器疾患をもたらしたり、部屋に散らかったゴミが転倒事故につながったりする場合があります。定期的な部屋の掃除や整理整頓が、病気やケガの予防策となります。
きれいな部屋で過ごすと気分が良くなって生活への意欲が高まるので、セルフネグレクトを予防するという意味でも部屋の掃除は有用です。きれいな状態に保つことで、自己管理能力を高めて孤独死のリスクを減らすことができます。
健康診断を受ける
定期的に健康診断を受けて病気の早期発見・早期治療を徹底することも、若者を孤独死から守る上で非常に重要です。年に一度の健康診断を受けると、自分の体の変化への意識も高まり、突然の体調悪化による孤独死のリスクを大幅に減らすことができます。
健康診断では血液検査や尿検査、心電図検査などにより、自覚症状がない段階で病気の兆候を見つけることができます。医師との面談を通じて、日常生活のアドバイスを得ることもできるので、積極的に活用しましょう。
会社や学校では年に一度の健康診断が義務化されていますが、個人事業主やフリーランスの人は会社に雇用されていないためこの義務がありません。ついつい受診しそびれてしまう人もいますが、自己管理のために必ず受診するようにしましょう。自治体が実施する無料の健康診断を利用できる場合もあるので、役所に問い合わせてみるのもおすすめです。
孤独死防止サービス
孤独死対策として自治体や企業、民間のNPOなど様々な取り組みをしていますので、主な取り組み4つ紹介します。
自治体のサービスを利用する
各自治体では、孤独死の防止に関するさまざまなサービスを展開しています。地域のボランティアが定期的に訪れて見守りサービスを提供したり、新聞・ガス・電気などの事業者と協定を結んで支援体制を作ったりしているケースが見られます。
要支援者台帳や支援者マップを作成する、人感センサーや緊急通報装置を配布するなど、自治体の孤独死対策はさまざまです。また、多くの自治体が株式会社ヤクルト本社の「愛の訪問活動」に協力しており、ヤクルトレディが独居の高齢者世帯に商品を届けながら安否確認をする体制も見られます。
これらは主に高齢者を対象とするサービスですが、自治体が若者の孤独死対策にも対応している可能性があるため気になる人は役所に問い合わせてみましょう。
NPO法人ボラナビ
北海道札幌市を中心に活動するNPO法人ボラナビは、独身者の安否を確認する「孤独死防止サービス」を運営しています。高齢者だけでなく、20代などの若者も利用可能なサービスです。
孤独死防止サービスの特徴
NPO法人ボラナビの孤独死防止サービスは、利用者がボラナビの提供する無人電話に週に1回電話をかけて安否確認をするというものです。
電話連絡が漏れるとボラナビのスタッフから連絡が来て、音信不通であれば家族や大家などの緊急連絡先に連絡してもらえるので、孤独死対策に効果的です。週に1回着信履歴を残すだけという手軽さから、無理なく社会とのつながりを維持することができます。
NPO法人ボラナビでは孤独死防止サービスのほかにも、18歳~100歳の独身者を対象としたオフ会やオンラインコミュニティなどを実施しています。会費は月額1980円で20~34歳女性は無料なので、孤独死が心配な人は検討するのも良いでしょう。
見守りサービス「ごえん」
孤独死防止の見守りサービス「ごえん」は、寝起きに天気予報を確認すると「起床確認」ができるサービスです。1日5円で利用できることと無縁社会に少しでもご縁をというコンセプトから、「ごえん」と名付けられました。料金は1日たったの5円で、1年あたりの利用料金が1825円という安さから利用しやすいのが特徴です。
見守りサービスというと監視されているようで嫌だと感じる人もいますが、天気予報を聞くだけで安否確認できるため抵抗感が少ないのもメリットといえます。無料お試しもできるので、興味のある人はチェックしてみましょう。
<利用の流れ>
- 毎朝電話で天気予報を聞くことで、「起きた」という「起床確認」をする。
- 電話がない場合、家族や大家さん、友人、支援団体などに連絡が届く。
その他のサービス
スマートフォンのアプリを活用したいわゆる「生存確認アプリ」や携帯電話で知らせる孤独死防止のサービスもあります。スマホを振るだけの手軽な見守りアプリ「みまサポ3」や、LINEを用いた「LINE見守りサービス」などがその一例です。
<生存確認アプリの例>
サービス名 | 利用方法 | 利用料金 |
みまサポ3 | 1日1回、設定時刻にスマホを振ったり動かしたりする。 反応がないと家族らに見守り通知が行く。 | 550円(税込) |
LINE見守りサービス | LINEで安否確認をタップする。 タップがないと24時間時間後に再送。 その後の連絡にも応じないと近親者へ連絡。 | 基本無料 つながりサービス月額550円(税込) |
Peaceful Line | 設定時間以上アプリ操作がないと、緊急連絡メールが届く。 メッセージ連絡機能、GPS付き。 | 基本無料 ライトプラン月額月額100円 プレミアムプラン月額980円 |
高齢者の中にはスマホに苦手意識を持つ人も見られますが、スマホになじんだ若者にとっては抵抗感なく活用できるサービスといえます。利用方法や利用料金はサービスごとに異なるので、適したものを探してみましょう。
まとめ
社会とのつながりの希薄化や経済的な貧困層にいる若者の増加により、若年層の孤独死が増えてきています。若者の中でも一人暮らしの人やコミュニケーションが苦手な人、ストレスを抱えやすい人などは心身に不調をきたしても周りに気づいてもらいにくく、自ら助けを求めることが難しいため孤独死に至るリスクが高いです。
若者の孤独死を防ぐにはSNSや対面でのコミュニケーションの維持や、定期健診の習慣化などが欠かせません。また、部屋をきれいに保つのも孤独死予防の重要なカギです。きれいな部屋に住むと病気やケガの予防になるだけでなく、メンタルケアにもつながります。実際に孤独死の現場では足の踏み場もないほどゴミだらけのケースも多いため、部屋の状態には気を配りましょう。
スマホの生存確認アプリや自治体などの孤独死防止対策を活用するのもおすすめです。本人や家族が主体的に行動して、若者の孤独死を未然に防ぎましょう。