家から溢れたゴミが道路を塞ぐ、悪臭を放つ、ネズミや害虫の発生など、近隣住民の悩みの種としてもたびたびマスメディアで取り上げられてきたゴミ屋敷問題。近所にこのようなゴミ屋敷があることでお困りの方も少なくないのではないでしょうか。
現在、こうしたゴミ屋敷を規制する国が定めた法律はありません。しかし、なんとか問題解決の糸口を探そうと独自に条例を定める自治体も増えてきました。
こうしたゴミ屋敷に関する条例(以下「ゴミ屋敷条例」)は、各自治体ごとに内容が異なります。その中でも全国で初めてこのゴミ屋敷問題に特化した条例を制定したのが東京都足立区です。
東京都足立区では、ゴミ屋敷を片付ける費用を工面できない世帯のために支援金として一部を区が負担するなど、積極的な取り組みを行ってきました。この記事では、東京都足立区のゴミ屋敷条例の内容や条例に基づく取り組みを詳しくご紹介します。
目次
【全国初】東京都足立区のゴミ屋敷条例とは?
2013年1月1日、東京都足立区はゴミ屋敷対策に特化した「足立区生活環境の保全に関する条例」という条例を全国で初めて制定しました。この条例は、単にゴミ屋敷の片付けを掲げたものではなく、ゴミ屋敷の原因となる地域からの孤立や、貧困、病気などにも目を向け、ゴミ屋敷問題の根本からの解決を目指したものです。その解決のための手順を以下にまとめました。
調査
東京都足立区の住民から足立区役所へゴミ屋敷に関する相談や通報があると、区の職員がそのゴミ屋敷を訪問し、まずは実態調査を行います。住人とのコミュニケーションを取れる場合には直接話しを行うなどして、ゴミの散乱状況の確認だけではなく、住人の生活状況においても確認を行います。
指導
調査の結果、環境衛生や防災、防犯などの観点から「不良な生活環境にある」と判断された場合、条例に基づき防火や清掃の指導はもちろん、福祉制度の紹介や健康相談など多方面からの指導を行うことで、状況の改善を目指します。
命令・公表
複数回に及ぶ東京都足立区からの指導に応じない場合、足立区の条例に基づき改善命令が出されます。また、この命令に従わない場合、氏名や住所が公に公表されるなどの厳しい措置が取られる可能性があります。
行政代執行
東京都足立区からの命令にも本人が応じない場合、東京都足立区が定める条例の最終的な措置である行政代執行が行われます。行政代執行というのは、行政が命令に従わない人に代わって状況改善を行うことを指します。ゴミ屋敷対策においては行政がゴミの撤去を本人に代わって行うことを言いますが、ゴミの撤去費用などはゴミ屋敷居住者へ請求することができます。
東京都足立区のゴミ屋敷条例の特色
法律は国が定めるため全国一律同じ内容ですが、条例は各自治体が制定するため地域ごとに内容が異なります。ゴミ屋敷条例についても、何をゴールとするのか、どこまで支援を行うのかなど捉え方が自治体によって異なるためその内容は様々です。東京都足立区が定めるゴミ屋敷条例の特色は大きく分けて以下の3つです。
命令、公表、行政代執行がある
前述の通り、東京都足立区のゴミ屋敷条例では命令や氏名・住所の公表、行政代執行を行うことができます。条例に強制力を持たせた東京都足立区によるこの厳しい措置は、人権やプライバシーの保護観点から議論の的となることも多いですが、条例による対応を強力に推進していくことが可能となります。
金銭面での支援制度がある
ゴミ屋敷の片付けに本人が同意しているものの、費用の面で片付けをすることが難しいと判断された住人に対しては、東京都足立区がその廃棄物処理にかかる費用(上限50万円)や樹木の伐採費用(上限100万円)を区の費用負担として支援する制度があります。
審議会がある
支援や、命令・公表・行政代執行などを行う際には必ず第三者である専門家や、東京都足立区の職員、地域の代表者によって構成された「生活環境保全審議会」の意見を聞くことが東京都足立区ではルール化されています。この審議会にかけられることで、偏ったものの見方を避けると同時に、様々な角度から支援の方法やあり方について議論することが可能です。
ゴミ屋敷条例による問題解決の難しさ
ゴミ屋敷問題の難しさは、ただゴミの撤去さえ行えば問題が片付く、というわけではないところにあります。実際に、道路上に溢れたゴミを撤去したにもかかわらず、再びゴミが積み上がり、近隣から再度クレームがあったケースも東京都足立区において見られました。このように、その根本にある問題を解決しない限り、ゴミを片付けたとしてもすぐにまた元の状態に戻ってしまうのです。では、何がゴミ屋敷問題の解決を難しくさせているのでしょうか。
本人が対応できない
ゴミ屋敷に住む人の多くは一人で住む高齢者、いわゆる独居老人だと言われています。核家族化が進み、一人で暮らす中で痴呆症を発症したり、うつ病などの精神疾患を伴う病気や体力の衰えなどからゴミ出しが困難になり、家がゴミ屋敷化するケースが増えています。
このような場合には、行政から指導を受けたとしても本人が直接ゴミの撤去や片付けを行うことは難しく、他者からの支援が必要となります。
接触拒否
本人が片付けることができない場合には家族や親族に連絡を取る、介護や高齢福祉などの関係機関と連携し各種サービスを案内するなど、他者の介入が必要となります。しかし、ゴミ屋敷に暮らす人の中には地域や親族からも孤立し他者との接触を拒否するケースも多いため、行政と対象者との間で時間をかけた丁寧な人間関係の構築や医療保険分野との連携が求められます。
本人にゴミの収集癖がある
ゴミ屋敷となる原因は、住居者の生活ゴミが蓄積されるだけではありません、捨てられているものを見ると拾ってきてしまう、いわゆるゴミの収集癖がある場合も少なくないのです。
東京都足立区でも、道路に堆積したゴミを行政代執行で片付けたにもかかわらず、収集癖のある住居人が、再びゴミを他方から集め堆積してしまった事例があります。このゴミ収集癖は、他者との接触拒否が同時にある人の場合、発達障害や精神疾患を疑われるケースが多く、福祉や医療保険分野との連携を強めていく必要があります。
まとめ
東京都足立区のゴミ屋敷条例に基づいた取り組みや、ゴミ屋敷問題の根底にある諸問題について解説してきました。
ゴミ屋敷化する根本には複数の要因があり、その問題を解決するためには単にゴミを片付けるだけでなく、福祉や町会・自治会を交えた対策が必要です。
東京都足立区では、この課題に対し福祉部や衛生部、医療保険分野や建築安全課、道路管理課、地域の町会・自治会介護事業所など「オール足立区」と呼ばれる横断型のサポート体制を取ることで、根本からの問題の解決を進めてきました。この東京都足立区の横断型サポート体制は総じて「足立区モデル」とも呼ばれ、同じくゴミ屋敷問題を抱える全国の地方自治体からも注目を集めています。
もし近所にゴミ屋敷があり、直接ゴミの撤去を訴えるだけでは状況が改善しない場合には、条例のあるなしにかかわらず、まずはお住まいの市区町村の役場に相談しましょう。時間はかかりますがきっと解決策の糸口が見つかります。