近隣に多大な迷惑をかけてしまうゴミ屋敷。
ゴミ屋敷は悪臭や見た目の不潔さだけではなく、放っておけば建物が倒壊したり、火災や犯罪の温床になったりする恐れもあるなど、深刻な問題を引き起こしかねません。
これに対して、自治体はどのような対策をとっているのでしょうか。
近年では、各自治体で条例を制定するなどの動きがあるようです。
東京都世田谷区の取り組みの例をご紹介します。
目次
全国各地で行われている対策とは?
いわゆる「ゴミ屋敷」や、放っておかれて繁茂してしまった庭の草木、ペットの無理な多頭飼育など、近隣に迷惑を及ぼす生活スタイルはたくさんあります。
住宅が適切に維持・管理されていないために生活環境が悪化したり、景観が悪くなる、道が塞がれているなどの弊害が出ている場合、多くの周辺住民は、自治体に相談や苦情を寄せることになります。
住民から相談や苦情を受けた自治体は、どのような対策を講じるのでしょうか。
当然、迷惑をかけている住宅に住んでいる人や所有している人に対して、適切な管理を行うように働きかけることになります。
ただし、その場合、単に注意を喚起するだけでなく、なんらかの法的根拠が必要となってきます。
そのような法律は、あるのでしょうか。
現在、それに近い法律としては「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」や道路法、消防法などが考えられます。
しかし、いずれも、ゴミ屋敷対策として必ずしも有効な対処策であるとは言い難い内容のようです。
では、ゴミ屋敷を改善させるには、どうすればよいのでしょうか。
現在、有効な法律がないため、いくつかの自治体では、既にある廃棄物処理に関する条例や、生活環境・環境美化に関する条例を一部改正し、ゴミ屋敷問題に対応しようとしています。
環境省が全国1741 市区町村に対して行なった調査「平成29年『ごみ屋敷』に関する調査 報告書」によると、「ごみ屋敷」に対応することを目的とした条例などの制定の有無については、82 市区町村が「有」、1657 市区町村が「無」と回答しています。
割合で見ると、条例がある市区町村が4.7%、ない市区町村が95.3%となり、実際に条例を制定している市区町村はまだまだ少ないことがわかります。
このような中、東京都足立区は、2012年、ゴミ屋敷問題の対処に特化した独自条例「足立区生活環境の保全に関する条例」を制定しました。
これ以降、他の自治体でも、同様の条例を制定しようとする動きが拡がってきています。
今後は、さらに増えて行くのではないかと考えられます。
ショック! 世田谷のゴミ屋敷
世田谷区は、東京23区の南西部に位置する街です。
「東京都世田谷区」といえば、成城を思い浮かべる人が多いかもしれません。
芸能人も多く住み、お金持ちが住む街というイメージの強いところです。
世田谷区は、このほかに、下北沢や三軒茶屋など若者に人気のエリア、駒沢など高級住宅の立ち並ぶエリア、子育てファミリーの街・二子玉川などを擁し、さまざまな年代にとって魅力ある街となっています。
東京に住むなら世田谷区で生活してみたいという人はと多く、昔から根強い人気がある街です。
世田谷区にゴミ屋敷が!?
そんな良いイメージのある世田谷区ですが、2019年に同区にあるゴミ屋敷が、テレビに取り上げられました。
しかも、この住宅は30年前からゴミ屋敷として存在し続けており、長きにわたって周辺住民たちを苦しめてきたというのです。
30年経つうちに、悪臭がひどいだけでなく、倒壊の危険性も出てきているようです。
2階建てのこの家は、正面から見て1階部分は右側に、2階部分は左側に傾いている状態でした。
つまり、建物全体が逆「く」の字に曲がってしまっています。
これは、長年溜まったゴミの重さのせいで傾いているのです。
ゴミは、建物と敷地の柵の間にぎっしり詰まり、歩道にもはみ出しています。
さらには、なんと屋根の上にまでゴミが積まれており、その重みで庇がひしゃげているほどでした。
住宅の窓は全て外されているため、外から中が見えますが、天井近くまでゴミが積み上げられていたそうです。
近隣への影響は?
このゴミ屋敷は、長年溜まったゴミから悪臭を放っています。
そのため、近隣住民は非常な迷惑をこうむっています。
あまりに臭いがひどいため、ゴミ屋敷の前を通るときは息を止めるという人も。
また、ここまで悪臭があるということは、建物内では害虫が大量発生していてもおかしくありません。
さらに、ネズミなどの害獣の存在も十分考えられます。
近隣住民が感じている不安は、これだけではありません。
繰り返しになりますが、この建物は、ゴミの重さによって曲がってしまっています。
むき出しになった柱は曲がり、折れかかっています。
外側の壁にはヒビが入り、壁と柱の間にはすきまができ、離れてしまっています。
この家屋を一級建築士が診断したところ、ヒビの入った壁は強度がない状態、柱は腐食して曲がっており、基礎部分もボロボロに劣化しているため、震度3程度の地震や強風で完全に崩れる恐れがあるという結果になりました。
このまま放置しておけば、地震や強風がなくても、ゴミの重みで崩れる危険も十分考えられると診断されました。
この建物付近は人通りや交通量も多く、もしゴミ屋敷が崩れれば大惨事になりかねません。
近隣住民は日々、危機感と恐怖を感じて生活しているのです。
東京都世田谷区という土地のイメージとはかけ離れたゴミ屋敷ですが、このような案件は全国各地で起きており、社会問題にもなっています。
世田谷区のゴミ屋敷に関する取り組みとは?
世田谷区では、平成28年3月「世田谷区住居等の適正な管理による良好な生活環境の保全に関する条例」を制定し、4月に施行しました。
その内容は、どのようなものなのでしょうか。
条例の対象となるのは、どんな家?
世田谷区では、どんな建物を「ゴミ屋敷」と定義するのでしょうか。
- 現に、居住者が居住していること
- 住居等(住居及びその敷地)に物品が堆積し、又は散乱した状態にあること
- 居住者及び地域住民の生活環境が著しく損なわれている状態にあること。(たとえば、物品の道路等への崩壊、流失、悪臭の発生、ゴキブリ、ハエ、ネズミその他これらに類する動物が群生しているなど)
この3つ全てに該当する場合を「管理不全な状態」、いわゆる「ゴミ屋敷」と定義します。
居住者と区、ゴミ屋敷に関するそれぞれの責務とは?
世田谷区の条例では、生活環境を良好に保つために、居住者と区それぞれの責務について規定しています。
居住者等の責務
管理者を含む居住者・所有者は、家が管理不全な状態にならないよう、適正な管理に努めること。
世田谷区の責務
居住者等と区が、それぞれの立場から対策を行い、ゴミ屋敷化しないため以下の責務を定めました。
- 世田谷区は、適正な管理を居住者等などが自ら行えるように、必要な施策を総合的に推進すること
- ゴミ屋敷にならないよう予防するための対策を行い、管理不全な状態を解消するために必要な措置を行う
区の取り組みとは?
世田谷区は、ゴミ屋敷問題の解決に向けて、具体的にどのようなことを行うのでしょうか。
まず、居住者に対して必要な助言や福祉的な支援を行います。
その中で、不要な物品の撤去や整理整頓などを促していきます。
しかし、やむを得ない事情によって居住者が改善に向けた対応ができない場合には、居住者に代わって区が片付けや整理整頓などを行うこととしています。
住民からの苦情・相談の流れは?
ゴミ屋敷で困っている周辺住民の相談先は、管轄の自治体です。
住民からの苦情を受けた自治体は、大まかに以下のように動きます。
区は、周辺住民などからの苦情の申し出や相談を受けると、当該の建物に立ち入り調査を行うなどして現場の状態を確認します。
調査の結果、不良な状態であれば、居住者等に対して改善するよう「助言」や「指導」、または「勧告」を行います。
居住者等が従わない場合は「命令」を行います。
住人が「命令」にも従わない場合は、最終的に「行政代執行」を行うという流れになります。
行政代執行とは、命令に従わず義務を果たさない人の代わりに行政機関が強制的に撤去・排除などを行うことです。
代執行の費用は居住者が負担することになります。
ゴミ屋敷の相談窓口は?
世田谷区でゴミ屋敷に関する苦情を寄せられる相談先は以下となります。
環境保全課
電話番号:03-5432-2278
FAX:03-5432-3062
総合支所地域振興課計画・相談(世田谷区は計画調整・相談)
- 世田谷
電話番号:03-5432-2818
FAX:03-5432-3031- 北沢
電話番号:03-5478-8038
FAX:03-5478-8004- 玉川
電話番号:03-3702-1134
FAX:03-3702-9020- 砧
電話番号:03-3482-1324
FAX:03-3482-1655- 烏山
電話番号:03-3326-1207
FAX:03-3326-1050
まとめ
クリーンなイメージのある東京都世田谷区にもゴミ屋敷は存在していました。
ゴミ屋敷に関する条例が制定されている自治体は全国ではまだまだ少ないですが、世田谷区ではゴミ屋敷対策に積極的に取り組んでいます。
この取り組みが全国でもっと広がり、みんなが安心・安全に生活できる街が増えていくといいですね。