ゴミ屋敷と聞くと一軒家のイメージが強いかもしれませんが、近年ではマンションやアパートなどの賃貸物件の一室がゴミ屋敷化するケースも増えています。
また、貸店舗や不動産投資として貸し出した物件のゴミ屋敷トラブルも、後を絶ちません。
こうしたマンションのゴミ屋敷は、他の住人の迷惑になるだけでなく、賃貸マンションの管理人にとっても大きな問題です。
マンションの一室がゴミ屋敷化してしまったら、管理人はどのように対処すればいいのでしょうか?
この記事では、こんな悩みを持っているマンションの管理人の方のために、ゴミ屋敷化したマンションの一室の対処法について解説していきます。
目次
マンションのゴミ屋敷トラブルは深刻
「ゴミ屋敷」と聞くと、一戸建てのイメージがありますよね。
敷地内だけでなく、道路までゴミが溢れているゴミ屋敷をメディアで見かけたことがある方も少なくないでしょう。
しかし最近は、マンション・アパートでも、ゴミ屋敷化が深刻な問題となっています。
マンションなどの集合住宅では、外部からはゴミ屋敷化していることが分かりにくいです。
このことから、“隠れゴミ屋敷”とも呼ばれています。
マンションがゴミ屋敷化する原因
マンションの住人がゴミ屋敷化するのは、集合住宅という形が関係しています。
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一戸建てと比べて、マンションの場合は入居者同士のかかわりが希薄です。
いわゆる“ご近所付き合い”というものが生まれにくいため、孤独になりがち。
そういった寂しさも、マンションがゴミ屋敷化するひとつの要因です。
また、マンションには独特のコミュニティがあり、ルールも存在します。
ゴミ捨て1つでも、ゴミステーションの使い方や時間に厳しい規則があるケースも少なくありません。
ルールを設けることは住人が快適に過ごすために重要なものですが、「面倒くさい」と感じ、ゴミ捨ての頻度が減る要因に。
マンションは1人暮らしの方も多く暮らしているため、自分しかゴミ捨てをする人がいないことも、ゴミ屋敷化の原因と考えられます。
さらに、集合住宅は一戸建てのように、外部から目につきにくいというのも欠点。
周囲に知られることなくゴミが増え、気づいたときには深刻な状況に陥ってしまうケースもあるのです。
マンションのゴミ屋敷化が管理人にもたらすデメリット
集合住宅であるマンションがゴミ屋敷化することは、一戸建てよりもリスクが多いです。
住民だけでなく、大家さん、管理人、そして同じマンションで暮らす住人にも悪影響を及ぼします。
中でも、マンションのオーナーや管理人は責任重大。
マンションの一室がゴミ屋敷化することは、管理人にさまざまなデメリットが発生するのです。
マンションの管理人は、以下2つのパターンに分けられます。
- オーナー兼管理人
- 雇用されている管理人
オーナー兼管理人は、マンションを購入したオーナーが管理人も兼任しているパターン。
雇用されている管理人は、マンションのオーナーから直接、もしくは管理会社を通して雇用されているパターンです。
それぞれ、マンションの一室がゴミ屋敷になった場合のデメリットに違いがあります。
ゴミ屋敷がオーナー兼管理人にもたらすデメリット
オーナー兼、管理人にとって、マンションの一室がゴミ屋敷化することは大きな問題。
心身面でも不安や、金銭的な負担など、多くのデメリットを伴います。
悪臭の発生
ゴミ屋敷は、独特な悪臭を放っています。
これらは、きちんと捨てずに放置された生ゴミによるもの。
生ゴミの腐敗臭は、その他のゴミと混ざり、強烈な悪臭を生み出します。
とくに気温が上がる夏場は、ゴミ屋敷の悪臭は想像を絶するもの。
ゴミ屋敷の住人が窓を開ければ、悪臭が他住人の部屋にも漂い、悪影響を与えます。
隣の部屋がゴミ屋敷では、ベランダに洗濯物や布団を干すこともままならないでしょう…。
ゴミ屋敷による悪臭の被害は、同じマンション住人の暮らしも脅かしてしまうのです。
害虫の発生
ゴミ屋敷で多いのが、ゴキブリをはじめとする害虫の発生。
食べ終わった食べ物や飲み物を放置すると、強烈な腐敗臭が漂います。
そういった臭いや食べ残しに誘われて、害虫がどんどん集まってくるのです。
不衛生な状態が続けば、害虫はあっという間に繁殖します。
害虫は、目にするだけでも不快なもの。
数が増えれば、自室だけでなく、同じマンションの住人宅へも移動して、悪影響を及ぼします。
害虫の発生が問題になれば、苦情の対応に追われるリスクもあるのです。
火災の不安
ゴミ屋敷でもっとも恐れているのが、火災の発生です。
不用品やゴミが積みあがっている状態は、引火するものがたくさんあります。
そのため、火災が発生すれば、ひとたまりもなく火の手が回り、大規模火災に発展することも少なくありません。
ゴミが多いと日の不始末にも気づきにくいため、発見が遅れ、火が燃え移る恐れも…。
また、掃除を長い間行っていないゴミ屋敷では、『トラッキング火災』のリスクも高いです。
トラッキング火災とは、プラグとコンセントの間にほこりが溜まることが原因のもの。
コンセントが不要品で覆われているゴミ屋敷の場合、トラッキング火災が起こる危険が常にあります。
マンションで火災が発生すれば、ゴミ屋敷以外の部屋に火が燃え移る可能性も少なくありません。
最悪の場合、住人の命のもかかわる重大な問題です。
物件の価値が落ちる
マンションで火災が発生しても、保険に加入していれば、保険金が支払われます。
入居者が原因の火災であっても対象です。
そのため、火災が発生した部屋も保険で原状復帰し、再び不動産経営を行うことはできます。
しかし、一度火災が起きてしまうと、“火災があった物件”という過去を消すことはできません。
火災で人が亡くなった場合、火災で全焼した場合は、マンション自体が「事故物件」扱いされる可能性も。
次の住人を探す際も、火災があったことは告知義務ですから、真実を伝えなければなりません。
事故物件となれば、物件そのものの価値が落ち、なかなか借り手が付かず、不動産収入が得られないデメリットもあります。
ゴミ処理の費用負担
ゴミ屋敷の片付けにかかる費用は、住人が負担するのが基本です。
しかし現状は、泣く泣く大家さんが負担せざるを得ないケースも発生しています。
ゴミ屋敷の住人は、高齢者が多く、家族はおろか身寄りもない方が多いです。
そういった住人が亡くなると、大家が自腹でゴミ処理や撤去費用を負担するほかありません。
仮に身内がいたとしても、相続を放棄すれば、ゴミ屋敷住人の代わりに作業費を支払う義務もなくなります。
空いた部屋を次の住人に貸し出すには、ゴミ処理は必須。
ゴミが大量にある場合、処理・撤去費用だけで30万円以上かかることもあります。
原状復帰費用
ゴミ屋敷を原状復帰するには、積みあがったゴミを処分するだけで終わりません。
臭いや汚れがしみ込んだクロス・フローリング・ふすまの取り換え。
状態がひどい場合、洗面所、キッチン、トイレなども使いものにならなくなっているケースもあります。
こういった費用は、保証人がいれば支払いを請求できる場合もありますが、耐用年数を過ぎていれば難しい場合も。
ゴミ処理費用と合わせて、膨大な原状復帰費用を支払わなければならないのも大きなデメリットと言えます。
オーナー兼管理人の場合、所有物であるマンションの価値が下がり、賃貸経営面でも大きな損害を被ります。
家賃収入が減るだけでなく、ゴミ屋敷の原状復帰にかかる費用を負担しなければならない場合もあり、問題は深刻です。
ゴミ屋敷が雇用されている管理人にもたらすデメリット
管理人がマンションのオーナーでなく、雇用されている身であれば、直接的なダメージはそれほど大きくありません。
マンションを保有して不動産投資を行うわけではないので、資産価値が下がっても管理人には関係のないことです。
しかし、管理人という立場で仕事をしている以上、自身の収入や信用に悪影響を及ぼす場合があります。
退去する住人が増える
住人からすれば、同じマンション内にゴミ屋敷化した部屋があること自体、問題です。
自分勝手な住人のせいで、自分たちの快適で安全な生活が脅かされるかもしれないリスクと隣合わせの生活。
「いつ火災が起きるかもしれない」「害虫や悪臭に悩まされるかもしれない」
想像するだけで、たまったものではありませんよね。
分譲マンションの場合は、すぐに引っ越したいと思っても、そう簡単に住まいを変えることはできません。
ですが、賃貸マンションの場合はどうでしょうか。
賃貸は家賃も安く、分譲マンションのようにローンの支払いもありません。
引越し費はかかりますが、分譲マンションに比べれば、住人にとって引っ越しのハードルは低いです。
そのため、賃貸マンションの一室にゴミ屋敷があれば、住民が退去してしまい、管理人の収入も減る可能性もあります。
ゴミ屋敷が原因で退去が多いということが知れ渡れば、新しい住人も寄り付かない可能性も十分あり得るでしょう。
つまり、ゴミ屋敷が残っている間は、管理人の大幅な収入減も覚悟しなければならないのです。
オーナーからの信用を失う
雇用されている管理人の場合、オーナーからの信頼を失ってしまうことが最大のデメリットです。
管理人は、住人が快適に過ごせるようにマンションの管理をするのが仕事。
ゴミ屋敷があれば、他の住人が快適に過ごせなくなってしまう可能性があるので、役目を果たせていないと見なされてしまっても仕方ありません。
賃貸マンションのオーナーに直接雇用されている場合、解雇となる場合も。
管理会社を通じて雇用契約を結んでいる管理人は、管理会社ごと変えられてしまう可能性も考えられます。
住人からゴミ屋敷の相談があったら、すぐに対策を
他の住人からゴミ屋敷の相談や苦情があったら、なるべく早く動くことが重要です。
このとき、相談や苦情の対処を後回しにしてしまうと、住人からの信頼を失ってしまうかもしれません。
とはいえ、ゴミ屋敷のゴミを勝手に捨てることは、室内はもちろん、共用部であってもすぐに撤去することはできないでしょう。
ゴミであっても、それは住人の所有物であり、勝手に捨てることは所有権の侵害になってしまうことがあります。
管理人ができる対策は、まずはゴミ屋敷の住人への説得です。
住人へ退去を促せる、具体的な説得方法について説明していきます。
ゴミ屋敷の住人への警告方法
ゴミ屋敷の住人に片付けをするよう注意する場合、以下2つのステップを踏みましょう。
- 直接、片付けをするよう説得
- 内容証明を送って警告
ここでは、これらの内容について説明していきます。
マンションのゴミ屋敷住人への警告方法①片付けをするよう説得
まずはゴミ屋敷の住人に対して、直接片付けをするように説得しましょう。
他の住人が迷惑していることを伝えれば、納得して片付けをしてくれる人もいます。
とはいえ、なかには一人で片付けるのが困難なくらい、ゴミが溜まってしまっているケースも少なくありません。
その場合は、専門の業者に依頼することも検討しましょう。
ゴミ屋敷清掃業者や不用品回収業者なら、最短で即日対応してくれるところもあります。
プロの業者の力を借りれば、大量のゴミや不用品も、数時間~数日で回収してもらえるため、頼りになります。
マンションのゴミ屋敷住人への警告方法②片付けをするよう内容証明を送る
説得しても応じてもらえない場合は、内容証明を送るのも有効な手段。
ゴミ屋敷の住人に対し、「◯月◯日までに室内のゴミを処分しなければ、賃貸借契約を解除する」という内容の注意勧告を送りましょう。
内容証明には法的な拘束力はないため、指定した期日までにゴミを処分しなかったからといって、実際に退去させられるわけではありません。
ですが、後々裁判になった際、注意喚起をしたことの証明になる大切な行為です。
内容証明は、ゴミ屋敷の住民に「このままでは裁判を起こされるかもしれない」というプレッシャーを与えることが、最大の目的。
ただし、内容証明や注意勧告は、他社の目に触れる形で行ってはいけません。
玄関ドアに張り紙を貼るのはもちろん、家へ直接言って大声で勧告するのもNGです。
こういった行為は、名誉棄損に該当する場合もあるため注意です。
内容証明や注意勧告は、他社の目に触れない書面で送りましょう。
「強制退去」は最終手段!現実は難しい
ここまで、ゴミ屋敷の住人への警告方法について解説しました。
色々と対処しても、一筋縄ではいかないのがゴミ屋敷問題。
話し合いでは解決できないケースが多いのが現実です。
どんな手段をしてもゴミ屋敷を片付けてもらえない場合、強制退去が最終手段となります。
ゴミを片付けないことを理由として、賃貸契約を解除することは可能です。
契約解除後も住み続けた場合は、ゴミ屋敷の住人が不退去罪となり、法的措置を行えます。
ゴミ屋敷の住人に対して裁判を起こし、退去を命じることができるのです。
実際に、過去の判例では、ゴミ屋敷の住人の退去を命じる判決も出ています。
ただし、裁判を起こすということは、そう簡単なものではありません。
裁判は、お金も手間も時間もかかりますし、心身ともに疲弊します。
そこで一度考えたいのが、行政の力を借りるということ。
ゴミ屋敷は深刻な社会問題であるため、行政も野放しにはしていません。
近年では、ゴミ屋敷解消のための条例を制定している自治体も増えています。
こうした自治体に通報すれば、行政による調査の対象に。
ゴミ屋敷の実態を調べて、住人に対して片付けをするよう、指導や勧告、命令を出します。
命令に無視した場合は、ゴミ屋敷を強制的に片付ける「代執行」処分が下されることも。
代執行が下されれば、住人の意思に関係なく、ゴミ屋敷の問題が解消できます。
ゴミ屋敷に悩んでいる管理人の方は、マンションがある地域にこうした条例がないか調べてみましょう。
マンションのゴミ屋敷トラブルを防ぐには
賃貸マンションの一室がゴミ屋敷化することは、管理人にとって大きなデメリットをもたらします。
そのため、ゴミ屋敷化している部屋を見つけたら、すぐに対処するようにしましょう。
直接の説得や内容証明の送付で問題が解決すればいいのですが、住人によっては効果がない場合もあります。
その場合は、裁判を起こして退去を命じるか、行政に通報して対処してもらうほかありません。
このように、マンションのゴミ屋敷はさまざまな問題を引き起こします。
ゴミ屋敷によるトラブルを回避するには、早めに気づくことが重要です。
- 入居審査をしっかり行う
- 契約書に保証人や入居ルールを明記する
- ゴミ屋敷になりそうな住人がいないかパトロールする
ゴミ屋敷問題は、どんな方法であっても解決までに時間と労力を使います。
トラブルに巻き込まれる前に、できる対策をしっかりとっていくことも、重要な対処法となります。